リリース時刻が 1 ミリ秒ずれたとき、ヒット位置が何ミリ動くか。小さいほど良い投げ方。
記号で書けば dY/dt。単位は mm/ms。補償のない剛体アーム近似では約 25〜30 mm/ms になるが、角度・速度・リリース位置を連動させると理論上ゼロまで落とせる。
完全にゼロにすると一次の項が消えるので、タイミング誤差は二次の項からしか入ってこない。この状態でエイドリアン・ルイスの縦方向のばらつき 6.99 mm を再現するのに必要なリリース時刻のばらつきは約 1.7 ミリ秒で、実測されている熟練者の範囲(0.78〜3.38 ms)にちょうど収まる。
つまり「トップ選手が異常に正確な時計を持っている」のではなく、「時計の精度が普通でも当たるように投げ方が設計されている」というのが実態に近い。
タイミング感度dY/dt = (∂Y/∂θ)·θ̇ + (∂Y/∂h)·v sinθ + (∂Y/∂x)·v cosθ + (∂Y/∂v)·v̇
第1項が悪さをする。残りの3項でそれを打ち消すのが「良いリリース」。
関連リリースウィンドウヒジの支点リリース角
3 本のダーツが同じ狭い領域に集まること。物理的な干渉と統計的な散らばりの両方に支配される。
「集める」ことの難しさには 2 つの層がある。ひとつは統計的な散らばり——リリースのばらつきそのもの。もうひとつは物理的な干渉で、先に刺さったダーツが後続の弾道を塞ぐ。
後者は無視できる大きさではない。トリプル 20 のリングは縦 8 mm、T20 の中心を狙ったときの横幅は半径 103 mm の位置で ±16.3 mm。ここに全長 45 mm のバレルが 3 本入る前提そのものが、かなり無理をしている。
刺さり角が立っているプレイヤーほど、この干渉の影響を受けやすい(→ 刺さり角)。
関連刺さり角誤差楕円
dispersion ellipse / confidence ellipseヒット位置のばらつきを 2 次元正規分布として表したときの等確率線。σx・σy・相関 ρ の 3 つで決まる。
ヒット位置を 2 次元の正規分布 N(μ, Σ) とみなす。Σ は 3 つの数で書ける——横方向の標準偏差 σx、縦方向の標準偏差 σy、そして両者の相関 ρ。
楕円の面積 π·√|Σ| が「うまさ」の総合指標になる。2019 年シーズンの PDC トップ 16 で最小はヴァン・ガーウェンの 156 mm²、最大はエイドリアン・ルイスの 215 mm² だった。同じトップ 16 の中に 38% の差がある。
σx と σy を分けて見るのが重要で、縦の誤差は速度とリリース角、横の誤差はリリース時の横方向速度と、原因がまったく別系統だからである。
共分散行列Σ = [[σx², ρσxσy], [ρσxσy, σy²]] , 楕円面積 = π√|Σ|
関連楕円の傾き期待得点抜け(手の中でのグリップの動き)
ellipse tilt / error correlation誤差楕円がどちらの対角線に倒れているか。相関 ρ の符号で表され、リリースの癖の指紋になる。
ρ > 0 なら「高く外れたときは右、低く外れたときは左」。ρ < 0 ならその逆で「低く外れたときは右」。ばらつきの大きさではなく、縦と横のズレがどう連動するかを表す。
この傾きは、リリース時刻のばらつきが縦と横の両方に同時に効くときに生まれる。手がリリースの瞬間に照準線を横切っていれば、離すのが遅れたときに「低く、かつ横に」ずれる。傾きの符号は、手がどちら向きに線を横切っているかを示している。
2019 年 PDC トップ 16 のうち 15 人は ρ = +0.267 〜 +0.464 に収まる。ただ一人、エイドリアン・ルイスだけが ρ = −0.221 と符号が逆だった。
関連誤差楕円抜け(手の中でのグリップの動き)スタンス
ある点を狙ったときの 1 投あたり平均得点。狙い点を board 全面で走査すると最適狙点が出る。
得点関数 s(x, y) を誤差分布 f(x, y) で畳み込むと、狙い点ごとの期待得点が board 全面で一度に求まる。畳み込みは FFT 2 回と逆 FFT 1 回で計算できるので、モンテカルロを回す必要はない。
この計算が面白いのは、最適狙点が腕前で動くこと。楕円が小さいうちは T20 が最適だが、ばらつきが一定以上になると T19(隣が 7 と 3 で、20 の隣の 1 と 5 より傷が浅い)に移り、さらに悪化すると board 中央付近に移る。
ルイスの誤差分布を基準にすると、切り替わりは σ を約 1.75 倍したあたり。つまり「T20 ではなく T19 を狙え」という助言は、プロには当てはまらない。
期待得点E[s] = (f_Σ ∗ s)(μ)
∗ は畳み込み。FFT で board 全面を一括評価できる。
関連誤差楕円3ダーツアベレージ
ダーツ 3 本あたりの平均得点。プロの実力を表す標準指標。
1 投あたりの期待得点を 3 倍したものが、そのプレイヤーの理論上の上限に近い。T20 を狙ったときの期待得点はヴァン・ガーウェンが 37.7 点、ルイスが 34.0 点で、3 本に直すと 11.3 点の差になる。
実戦のアベレージはフィニッシュやセーフティを含むため、この理論値とは一致しない。ルイスのテレビ最高アベレージは 2015 年プレミアリーグでのレイモンド・ファン・バーネフェルト戦、113.80 である。
関連期待得点誤差楕円
競技規定で定まった board の各半径。すべての計算の前提になる。
中心からダブルブル外周まで 6.35 mm、シングルブル外周まで 15.9 mm、トリプル内周 99 mm、トリプル外周 107 mm、ダブル内周 162 mm、ダブル外周 170 mm。セグメントは 18 度ずつ、20 が真上。
スローラインは board 面から水平に 2.37 m、ブル中心の床からの高さは 1.73 m。
重要なのはトリプルリングが 8 mm しかないこと。半径 103 mm(トリプルリングの中央)における 20 のセグメントの横幅は 103 × tan9° × 2 = 32.6 mm。縦 8 mm × 横 32.6 mm——これが狙っている的の実寸である。
関連誤差楕円グルーピング